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浦和地方裁判所 平成7年(ワ)295号 判決

原告

有限会社A

右代表者代表取締役

甲野太郎

右訴訟代理人弁護士

城口順二

右訴訟復代理人弁護士

髙木太郎

被告

大東京火災海上保険株式会社

右代表者代表取締役

小坂伊左夫

右訴訟代理人弁護士

江口保夫

江口美葆子

豊吉彬

山岡宏敏

主文

一  原告の請求を棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告は、原告に対し、三九八七万七七〇八円及びこれに対する平成六年七月一日から支払済みまで年六分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

3  仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

第二  当事者の主張

一  請求原因

1  保険契約の締結

原告は被告との間で、埼玉県大宮市桜木町〈番地略〉△ビル一階所在の原告経営にかかる店舗(カラオケボックステン、「以下本件店舗」という。)について、左記のとおり保険契約(以下「本件保険契約」という。)を締結した。

(一) 保険の種類 積立動産総合保険

契約日 平成四年一〇月二九日

証券番号 第二六一四・六七〇五五号

保険期間 平成四年一一月一日から平成九年一一月一日まで

保険の目的 設備・什器一式

保険金額 三〇〇〇万円

(二)

保険の種類 店舗総合保険(店舗休業保険付)

契約日 平成五年一〇月二九日

証券番号 第八一三三・一七六八一号

保険期間 平成五年一一月一日から平成六年一一月一日まで

保険の目的 商品

保険金額 五〇〇万円

休業保険金額 一日につき一二万円を限度

復旧期間 三か月

2  保険事故の発生

平成六年四月一日午前四時五〇分ころ、本件店舗で火災が発生し、本件店舗は焼失した(以下「本件火災」という。)。

3  損害額

什器備品・商品・店舗改装費用

三五〇〇万円

休業損害 四八七万七七〇八円

(一日七万一七三一円、営業再開までの六八日分)

4  よって、原告は、被告に対し、本件保険契約に基づき右合計三九八七万七七〇八円及びこれに対する原告が被告に対し履行を請求した後である平成六年七月一日から支払済みまで商事法定利率年六分の割合による遅延損害金の支払いを求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1及び2の各事実は認める。

2  同3の事実は否認する。

損害額は、営業用什器備品一式が一五一四万〇二七二円、商品一式は六四万七二六〇円、休業損害が二三六万〇二一五円である。

三  抗弁

1  原告代表者の故意又は重過失

本件火災は、原告代表者甲野太郎の故意又は重過失により発生したものである。

したがって、被告は原告に対し保険金を支払う義務はない(積立動産総合保険普通保険約款第三条、店舗総合保険普通保険約款第二条、店舗休業保険普通保険約款第二条)。

2  不実申告による免責

本件店舗においては、平成三年一〇月一六日にも火災事故が発生していたところ、原告は、本件火災の後、被告に対し、前回の火災後の店内改装費用として二四六三万三四五〇円、その後業務変更に伴う店内改装費用として八六七万三二二〇円を要した旨申告した。

しかし、実際に原告が業者に支払った金額は、値引きあるいは原告の家族が工事を手伝う等した結果、火災による店内改装費用として一五〇〇万円、業務変更に伴う改装費用として三二四万〇四二三円であったにすぎない。

このように、原告は、損害額について不実申告をした。したがって、被告は原告に対し保険金を支払う義務はない(積立動産総合保険普通保険約款第四章一二条、店舗総合保険普通保険約款第三章二六条)。

四  抗弁に対する認否

1  抗弁1の事実は否認する。

原告代表が故意又は重過失により本件火災を発生させたことはない。原告代表者は、本件火災発生当時熱海に釣りに出かけており、本件火災に関与したことはない。

2  同2の事実は否認する。

原告が、損害申告に際し、不実申告をしたことはない。

第三  証拠

証拠関係は、本件記録中の書証目録及び証人等目録のとおりであるから、これらの各記載を引用する。

理由

一  請求原因1及び2の各事実は当事者間に争いがない。

二  抗弁について

1  免責約款の存在

原、被告間において締結された本件保険契約の約款には、①保険契約者、被保険者、被保険者以外の保険金受取人又はこれらの者の法定代理人(これらの者が法人であるときは、その理事、取締役又は法人の業務を執行するその他の機関)の故意又は過失により生じた損害については、保険金を支払わない、②保険契約者又は被保険者が損害について故意に不実の申告をしたときは、保険金を支払わない旨の各規定が存在する(乙一七ないし一九)。

2  前提事実

(一)  本件店舗の位置、構造等

本件店舗は、大宮駅西口の商店街の一画にある△ビルの一区画に位置している。△ビルは、昭和三九年一二月に建築された鉄筋コンクリート造三階建(一部二階建)、陸屋根、外壁モルタル一部トタン張り、建築面積五四二平方メートル、延床面積一四四八平方メートルの事務所兼店舗(一部住居)の複合用途建築物であり、原告は昭和五九年一一月、所有者の松本正明から右ビルの一階四区画のうちの一区画八二平方メートル(本件店舗)を賃借し、ここで本件火災発生当時、スナックカラオケボックステンを経営していた。

本件店舗の営業は、原告代表者のほか、店長の川畑弥生と原告代表者の妻、息子、娘、アルバイト二名によってまかなわれており、その営業時間は、昼の零時から、平日は翌日午前六時まで、日曜、祭日は翌日午前三時までとなっており、本件火災当日は午前三時が閉店時間だった(乙一、二三)。

(二)  出火時間

一一九番通報により消防署が本件火災を覚知したのが平成六年四月一八日午前五時二〇分であること、△ビル内に居住する池田幸子が最初に本件火災に気付いたのが午前五時前であると供述していることから、出火時間は、同日午前四時五〇分ころであると認められる(乙一)。

(三)  出火場所

出火場所については、焼燬状態から判断して本件店舗以外に考えられず、本件店舗内では、カウンターの中央付近に置かれていた北から五番目の椅子が特に焼損していること、カウンター下壁面は北から五番目の椅子座面と接した部分に燃え上がり跡があること、天板裏合板は北から五番目の椅子が置かれていたところ付近に深い炭化亀裂がある等の事実が認められることから、本件火災の出火場所は、本件店舗内のカウンター席の北から五番目の椅子座面であると認められる(乙一)。

(四)  出火原因

本件火災の出火原因としては、電気関係、ガスコンロ、煙草及び放火が考えられるところ、電気関係設備、ガスコンロの周辺には強い燃焼がみられないこと、煙草については吸殻が閉店直前に始末されており、また、煙草の火だけでは独立燃焼に至ることはないと考えられること、カウンター席には店長の川畑が当日午前三時ころ掃除をして最後に退出したにもかかわらず、本件火災後酒瓶、ジョッキ等が散乱している状態が現認されており、このことから閉店後に何者かが侵入したと思われること等から、本件火災の出火原因は、閉店後何者かがライター等でカウンター席北から五番目の椅子座面に着火してなされた放火であると認められる(乙一)。

(五)  本件火災発生前の本件店舗の営業状況

本件火災発生の前日は、昼から原告代表者の妻と娘が店に出ていたが、午後六時三〇分ころに原告代表者、店長の川畑及びアルバイト一名と交代し、午後一一時三〇分ころにアルバイトが帰宅した後は、翌日午前三時前ころに原告代表者、午前三時ころに川畑が退去するまでは、右二名で本件店舗を営業していた(乙一)。

以上の事実からして、本件放火犯人は、午前三時以降川畑が本件店舗を退去後に店に侵入して放火行為に及んだものと推定される。

3  本件火災発生についての原告代表者関与の有無

被告は本件火災は原告代表者又はその意を受けた者の故意行為により発生した疑いが強く、原告代表者による事故招致が推認される旨主張するので、この点について判断する。

(一)  本件店舗の本件火災当日の施錠について

(1) 本件店舗出入口の施錠

本件火災発生時、本件店舗の出入口は、表口、裏口とも施錠されており、錠は破損されてはいなかった(乙一)。

放火犯人が、閉店後、本件店舗に侵入する際に、本件店舗の出入口が施錠されていたかについて検討するに、表口については最後の店を出た店長の川畑が施錠している(乙一)。そして、裏口については、川畑は施錠を確認しておらず、また、裏口の錠は、外部から鍵で施錠することができず、内部からプッシュボタンを押して施錠する型のものである(乙一二)ので、本件火災当時施錠されていたとの一事をもって、放火犯人が侵入したとき裏口が施錠されていたと断定することはできないが、原告代表者が、閉店後トイレのゴミを捨てる際に、習慣でいつも裏口の施錠を確認していること(したがって、川畑は裏口の施錠については確認しなかったものと思われる。)、原告代表者は、本件火災当日もいつもと同様トイレのゴミを捨てていることから、当日、裏口の施錠を確認したとの明確な記憶は有していないものの、毎日習慣的に行っている作業について明確な記憶がないことはよくあることであり、むしろ当日、施錠に関連する事項について特段の記憶がない以上、裏口については、原告代表者が故意に開錠していない限り、普段と同じように施錠されていた蓋然性が極めて高いというべきである(乙一、原告代表者)。したがって、本件店舗は、本件火災当日、いつもと同じように表口、裏口ともに施錠されていたものと認められる。

(2) 本件店舗出入口の錠を開錠する方法について

本件店舗の表口、裏口の各錠の種類、構造からすると、鍵を持たない第三者が錠を破損させることなくこれを開錠する方法としてはピッキングが考えられるが、右ピッキングについては専用の工具とかなり熟練した技術が必要であり、後記のとおり本件店舗内に存在した耐火用金庫をこじ開けようとしたが開けることができなかった痕跡があったこととの対比からも、本件放火犯人がピッキングで本件店舗の表口ないし裏口を開錠したとは考えがたい(乙一二)。

右(1)、(2)の認定事実からすると、本件放火犯人は、本件店舗出入口の鍵(コピーされた合鍵を含む。)を使用して本件店舗内に侵入した可能性が極めて高いものと認められる。

(二)  本件店舗の鍵の所持者と原告代表者の供述の変遷

(1) 鍵の所持者について

本件店舗の鍵の所持者は、本件火災当時、原告代表者、同人の妻、息子、店長の川畑(表口のみ)、本件店舗の賃貸人である松本の五名であった(乙一、一三、原告代表者)。

(2) 鍵の所持についての原告代表者の供述

原告代表者は、本件火災発生後一貫して、本件店舗裏口の配電盤のところに裏口の鍵を置いていたが、本件火災後、配電盤をみたところ鍵がなくなっていたと供述し、放火犯人が配電盤のところに置いてあった鍵を使用して本件店舗内に侵入した可能性を示唆していた(乙一三、三三)。

しかるに、原告代表者は、本裁判の第五回口頭弁論期日において、「本件火災の際に配電盤のところに鍵はなかった、愛人である乙山花子(以下「乙山」という。)の自宅で鍵を紛失したのを思い出した。」と供述するようになり(原告代表者)、以前の供述を変更した(第四回口頭弁論期日に提出された甲一四(陳述書)においても鍵は紛失した旨供述を変更した。)。

(3) 本件火災当日の原告代表者の行動についての供述

原告代表者及び乙山は、本件火災当日、熱海に釣りに行くために午前三時三〇分ころ大宮市内の乙山宅を出発し、その途中、与野市与野本町のセブンイレブンに立ち寄り、煙草やジュース等を購入した旨供述していた(乙一、二四、二九、三三)。

しかし、原告代表者及び乙山は、本裁判の第五回及び第九回各口頭弁論期日において、与野本町のセブンイレブンへは立ち寄っておらず、自動販売機で煙草等を購入したと供述を変更した。右各供述の変遷について、原告代表者及び乙山は勘違いをしていたと供述している(原告代表者、証人乙山)。

(三)  原告の経営状態

(1) 原告は、あさひ銀行、国民金融公庫、株式会社ジャックス等に対して一〇〇〇万円弱の貸金債務を負担しており、それらに対する返済の関係もあって、原告の経営状態は、その当時平均して毎月五〇万円を超える赤字が続いており、その資金繰りは相当厳しい状態であった(乙一、一四、二八、証人中谷、原告代表者)。また、原告代表者は、八年以上同棲している愛人である乙山から合計二六〇〇万円(但し、一二〇〇万円、一五、六〇〇万円、二〇〇〇万円くらいという供述もあり、その金額は必ずしも明確ではない。)の資金の融通を受けていた(乙一三、二八、証人乙山、原告代表者)。

しかし、原告代表者は、本件火災直後、消防署員に対し、原告の経営状態は他人から羨ましがられるくらい良好であったなどと虚偽の供述をしていた(乙一)。

(2) また、原告の経営資金について、原告代表者は、母親が東京都大田区内に所有する不動産を担保に一〇〇〇万円資金援助してくれたと供述するが(原告代表者)、実際には、原告代表者の母親が所有する不動産には抵当権等は設定されておらず、また、原告代表者の母親は長崎県北松浦郡内で弟と共に生活し、右不動産からのアパート収入で生活していたと認められるから、原告に対して、資金援助する経済的余裕があったかについては疑問がある(乙二八、三〇、三一の一ないし三、証人中谷)。

(3) 原告は、後記一回目の火災による店内改装を有限会社神宮木工芸社に依頼したが、当初の見積り二四六三万三四五〇円の工事を相当額分圧縮し、一五〇七万七三八五円とし、うち一五〇〇万円をその当時かけていた火災保険金で支払った(乙一一)。さらに、原告は、平成五年一二月にカラオケボックスへの改装工事を行ったが、当初の見積りは八六七万三二二〇円であったところ、原告代表者等が工事を手伝ったりした結果、業者が工事費として原告に請求したのは一六八万〇六六三円、原告が実際に支払ったのは一四二万〇五五〇円であった(乙一一、乙二八)。原告は、あさひ銀行大宮西支店より、カラオケボックスへの改装資金として、四五〇万円の融資を受けていたが(乙二八)、実際には神宮木工芸社のい一四二万〇五五〇円しか支払っておらず、株式会社武蔵野照明(冷暖房設備の工事費)については、クレジット会社に立替払いを依頼して分割払いとしている(乙一一)。

したがって、カラオケボックスへの改装資金として融資を受けた四五〇万円のうち、相当部分を、経営資金に流用していたことが推認される。

(四)  本件店舗内の金庫の状態

(1) 本件店舗内にあった金庫には無理にこじ開けようとした痕跡があった(乙一)。

(2) しかし、右金庫は耐火が主目的であり、バール等の工具を使用すれば金庫の構造を知った者で一五分くらい、素人でも三〇分程で開けることが可能であった(乙三)。こじ開けようとした痕跡は、放火犯人がつけたものと考えられるが、右事実から、放火犯人が真実窃盗目的で侵入したかについては疑問が残る。

(五)  二度の火災事故と保険金の受給

本件店舗については、平成三年一〇月一六日にも火災(消防署により煙草の吸殼の不始末が原因であると推測された。)が発生し、原告は、右火災により火災保険金を受給している(乙二、原告代表者)。

(六)  本件放火犯人の特定

前記のとおり本件火災は、本件放火犯人が鍵(合鍵)を使用して本件店舗に侵入のえ、放火行為に及んだものと推認できるから、前記鍵の所持者について検討すべきところ、右認定の事実からすれば、前記鍵の所持者のうちで、動機の点からは、原告代表者が最も直接的な動機を有していたものと認められる。すなわち、原告の経営は、本件火災当時赤字続きで相当厳しい状態であったのであり、本件火災保険金の取得は動機として十分誘惑的でありえたものと考えられる。これに対し、川畑は、単なる被用者であり、原告代表者の家族、家主の松本とも放火の動機は考えがたく、また、前店長の山浦博明については、鍵のコピーを作ることは可能であったと思われるが、同人は平成五年八月に退職後は店と一切関わりなく、その言動に特に不審な点は見出しがたい(乙一五)。

ところで、原告代表者が右鍵の所在について、重要な部分で供述の変更をしたのは、(二)(2)にみたとおりであるところ、原告代表者は、右供述の変遷について、本件火災により気が動転していたからであるというが(原告代表者)、原告代表者は、本件火災から四か月近く経過した時点においてもなお、配電盤のところに鍵を置いていたと供述していたのであって(乙三三)、右の供述の変遷の理由としては不十分であるとはいわざるをえない。むしろ、右供述の変遷は、配電盤のところに鍵をおいていたという供述を維持すると、右供述内容が客観的証拠(乙一五)と符合せず、虚偽の内容であったことが法廷で明らかになるのを恐れて、供述内容を変更したものと推測され、原告代表者が当初配電盤の鍵の存在を供述していたのは、本件放火犯人が本件店舗の鍵の所持者ないしはこれと関連する者との疑いを生じさせないようにすることを意図した虚偽の供述であったものと推認するのが相当である。

また、原告代表者の供述の変更は、右にとどまらず乙山の家から熱海に向かう前に与野本町のセブンイレブンに立ち寄ったか否かについても存在するのであるが、この点について、勘違いであったとする原告代表者及び証人乙山の弁明は両名揃っての勘違いという意味でも不自然に過ぎるものといわざるをえず、むしろ、これは、その後立ち寄ったと供述している小田原市内のセブンイレブン小田原早川店の領収書があるにもかかわらず、与野市与野本町のセブンイレブンの領収書がないのは不自然と考えられたため、その供述を変更したものと推測される。

そのほか、原告の経営状態の良し悪しや母親からの資金援助の有無に関する原告代表者の前記虚偽供述の存在並びに原告が以前にも火災事故で火災保険金を取得していることなどを総合勘案すると、本件火災は、その具体的な行為態様及び放火の実行犯は不明であるものの、鍵の所持者である原告代表者自身あるいは原告代表者から依頼を受けた第三者の故意行為により発生させられたものと認めるのが相当である。

これに対し、原告代表者のアリバイを裏付けるものとしては、本件火災当時午前五時二六分に小田原市内のセブンイレブンで買い物をしているレシートがあり、時刻は不明であるものの当日の熱海までの往復の高速道路、有料道路の領収証がある(甲一二、一三)。そして、原告代表者及び乙山は、魚釣りのために当日午前三時三〇分ころに大宮市内の乙山のマンションを出発し、熱海まで車で行ったと供述する。しかし、原告代表者の供述は、前述のとおり疑わしい面が多く、また、乙山も、前記のとおり、原告代表者と八年以上同棲している愛人であり、原告代表者に対して、多額の資金を都合していることや、熱海に行く途中、与野市内のセブンイレブンに立ち寄ったか否かについて供述を変遷させていることをあわせ考慮すると、原告代表者の右供述及び乙山証言の信用性については、疑問を持たざるを得ないものであり、レシートや高速道路などの領収証の書証だけでは、原告代表者ないし乙山のいずれかが午前五時二六分に小田原市内のセブンイレブンにいたことが認定できるとしても、原告代表者と乙山の二人共が同時刻に小田原市内のセブンイレブンにいたことまで認定するには必ずしも十分な証拠であるということはできず、また、仮に、原告代表者の供述や乙山証言のとおり、原告代表者が右時刻に小田原市内のセブンイレブンに立ち寄っていたとしても、本件放火は、前記のとおり、原告代表者から鍵を借りた第三者による可能性もあるから、これをもって前記認定を左右するものではないというべきである。

したがって、被告の抗弁1は理由がある。

三  結語

以上の事実によれば、原告の本訴請求は、その余の点について判断するまでもなく理由がないことになるからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官前島勝三 裁判官設楽隆一 裁判官鈴嶋晋一)

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